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東京地方裁判所 昭和30年(行モ)9号 決定 1955年3月16日

申立人 米山四郎

被申立人 東京都公安委員会

主文

本件申立を却下する。

理由

本件申立の要旨は、申立人は昭和二十九年九月十八日被申立人の許可を受け、爾来その肩書地において遊技場(パチンコ)営業をなしてきたものであるが、被申立人は申立人に対し申立人の使用人木村不二夫が客の景品売買をなす事実を知りながらこれを防止せず、又景品の買主を客に教えたことは風俗営業取締法第四条に該当するという理由で昭和三十年二月二十二日聴聞手続を経たうえ、昭和三十年三月一日から二十日間営業の停止を命じ、その旨同日通知してきたのであるが、右営業停止処分は申立人及びその使用人に何等その根拠となつたような事実がないのに虚偽の事由を述べた参考人の聴取書を基礎としてなされたものであるから違法である。そこで申立人は被申立人を相手とり東京地方裁判所に本件営業停止処分の取消の訴を提起し(同庁昭和三十年(行)第二八号事件)たが、右訴訟に勝訴しても、その判決確定までの間に本件営業停止処分がそのまゝ執行(広義の)されるとすれば、営業停止により収入の道を絶たれることは勿論信用を毀損され将来営業を続けて行くうえに所謂この種の前科者として厳重な監視を受け結局営業を廃止するのほかなきに至り、申立人は償うべかざる損害を蒙むることになるのでその損害を避けるため被申立人に対して本件営業停止処分の執行(広義の)の停止を命ぜられんことを求めるというのである。

よつて考えるに申立人は、本件営業停止処分の執行により営業を停止せられ収入の道を絶たれると主張するが、申立人の生活の基礎は寧ろ本件営業以外にあることは申立人の本件執行停止命令申立書の補充申立書(意見書)に「申立人は電機械修理販売業が本職であつて遊技場経営は兼業である故にパチンコ営業による収入を以て生活の全費用としているものではない云々」との記載からしても明白である。次に申立人は本件営業停止処分により「信用を毀損され将来営業を続けて行くうえに所謂この種の前科者として厳重な監視をうけ結局営業を廃止するほかなきに至り」というも本件営業の停止により申立人の信用が害せられることは、当然予想せられるが、信用毀損によつて特別な損害を蒙むることの主張のない本件においては申立人の信用は後日申立人の勝訴の暁において金銭賠償その他の方法によつて回復され得るのであり(民法第七百二十三条参照)又所謂この種の前科者として厳重な監視をうけるという点は申立人が前科者というのは申立人が本件営業停止処分を受けたことをいうのであるから、申立人が本件の本訴において勝訴の判決を受けない限りは(すなわち営業停止処分が取消されない限りは)、たとえ一時的にその営業停止処分の執行の停止を得ても前科者であることには変りはなく前科者として厳重な監視をうけるというおそれは、本件営業停止処分の執行の停止によつては当然防止し得ないことであつて、このことを以て本件営業停止処分の執行の停止を求める理由とはなし得ないものといわなければならない。これを要するに申立人は本件営業停止処分の執行により償うことのできない損失を受けるものということはできないので、申立人の本件申立は理由がないものといわなければならない。よつてこれを却下することとし主文のとおり裁判する。

(裁判官 飯山悦治 荒木秀一 鈴木重信)

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